建設部材としての継手に使用する、シール材としての合成ゴムの種類と注意点

キーワード ステンレス製メカニカル継手(Stainless steel pipe fitting of mechanical type)、合成ゴム(Synthetic rubber)、耐久性(Durability)、用途拡大(Extention of uses)

はじめに

近年、建物を改修しながら長期間維持する、いわゆる100年住宅、200年住宅への取り組みが行われている。このため、一般的には多くの種類の合成ゴムが使用されているものの、建築設備としての継手に使用される合成ゴム製ガスケットの耐久性に対する関心が高まっている。そして、継手に使用される合成ゴムの種類と継手設計時および製造時での注意点の整理が重要になっている。ここでは筆者が長年携わってきたステンレス製メカニカル継手を対象として、用途開発の事例を含めて紹介する。

  1. 継手に使用される合成ゴムの種類と特徴

    使用される合成ゴムの種類は、継手の耐久性に対する関心と要請が高まる中で整理されてきたと思われる。表1に主要な継手に使用されている合成ゴムの種類と特徴を示している。

    表1 合成ゴムの種類と特徴
    合成ゴムの種類 特徴
    ブチルゴム(IIR) 耐熱性、耐熱水性、耐塩素水性、耐オゾン性に優れている。
    フッ素ゴム(FKM) 耐熱性と耐薬品性に特長が有り、耐塩素水性、耐オゾン性にも優れている。耐熱水性については充分な配慮が必要。
    水素化ニトリルゴム(HNBR) ニトリルゴム(NBR)を改良したゴムで、耐熱性、耐熱水性、耐塩素水性、耐オゾン性に優れている。
    エチレンプロピレンゴム(EPDM) 耐熱性、耐熱水性、耐オゾン性に優れている。耐塩素水性に劣り耐塩素 EPDMが主流となっている。

    特に水道水に微量含まれる殺菌用遊離残留塩素に起因するEPDMの劣化現象により生ずる黒粉の発生に対して多くの研究が行われ、耐塩素水EPDMが開発されている。耐塩素性能を評価する基準として、日本水道協会規格JWWA B 120:2011(水道用ソフトシール仕切弁)において耐塩素性能試験方法が定められ綿棒への黒粉の付着量で合否判定が行われており、他の規格への採用も行われている。

    今後の各方面における本試験方法に対する評価を期待しているが、200mg/Lの高い残留塩素濃度での浸せき試験であることから硬化劣化するゴムもあると考えられ1)、黒粉の発生は少ないが劣化の度合いは大きいことがあり得るとも予想される。

    このため、この試験を適用するゴムの選択に注意すると共に、合格であったとしても遊離残留塩素に対する耐久性を評価したものではないことに注意する必要がある。

    さらに、フッ素ゴムの熱水に対する耐久性についての配慮も重要である。フッ素ゴムは耐熱性に優れたゴムであるが、メカニカル継手が対象とする70°C〜80°Cの熱水に対して、硬化劣化するとの報告がある2)。

    フッ素ゴムは耐残留塩素性にも優れており、近年、採用が増えていると感じているが、耐熱水に対する性能についての充分な検証を行った上での採用が必須である。

  2. 継手のガスケットとして設計する場合の合成ゴムの注意点
    1. ゴムの選定

      継手の対象とする流体の決定が第一であるが、一般的なメカニカル継手を考えた場合、ガスケットに必要な主な性能は、耐圧縮永久ひずみ性、耐熱性、耐残留塩素性、浸出性能である。

      「耐圧縮永久ひずみ性」はゴムに対して一定の圧縮力を負荷してシール性能を得る必要がある以上、ゴムの塑性変形を評価する性能である。「耐熱性」は継手の最高使用温度を決める場合の根拠の一つとなるため、その温度付近での性能評価を実施しなければならない。

      また、高温下での使用では使用寿命が短くなる傾向を示すため促進劣化試験による寿命推定が必要となる。「耐残留塩素性」は前述したような黒粉問題および給湯配管での遊離残留塩素濃度の上昇傾向から、必ず促進劣化試験により評価しておく必要がある。

      「浸出性能」への適合は飲み水を扱う以上必須である。ステンレス協会規格SAS322:2014(一般配管用ステンレス鋼鋼管の管継手性能基準)に、ゴムの性能評価のための各種の試験項目が定められているが、製造時の品質を維持・管理するための試験と考えるべきである。

      選定時にはゴムメーカーおよび市場のゴムの劣化を研究し、責任ある意見を公開している研究機関からの意見を参考に、寿命推定を含む促進劣化試験結果から選定しなければならない。ゴムは、同一材質であっても、架橋密度、架橋形態によっても発現する物性に重大な影響を受けることから、ゴムの性能は、製造するゴムメーカーによって、全く異なる可能性がある。また、量産後のゴムメーカー変更は初期設計時以上に慎重に選定する必要がある。

    2. 継手の構造

      継手の構造は一言で表せば「閉じ込める」である。

      これにより、温度変化への追随、セルフシール構造および流体とガスケットとの接触面積を狭くすることが可能となる。ただし、いかにセルフシール構造としても微少な流体圧力のシール、温度変化への対応また接続している管の、振動や温度変化からの力に起因する傾きなどの変位に対応するためには一定の圧縮によるゴムからの反発力が必要となる。

      「閉じ込める」構造になっていない場合、最も影響が顕著に出るのは、流体の温度上昇により、シール部の開いている隙間からゴムがはみ出す場合である。この場合、ゴムの、温度変化による膨張、収縮の影響が他材料より大きいことから、温度が低下すると、ゴムが収縮し、ゴムからの反発力が減少し、施工から短期間で漏水に至る。

      また必ず発生するゴムの塑性変形量を考慮した、最高使用圧力に対応した圧縮率を設定することも重要である。図1に使用する水圧力に対応した圧縮率の一例を示す。

      図-1 ゴムの圧縮率と水圧力

      この圧縮率は、ゴムの材質、継手の構造を考慮して実験を行い設定する必要がある。

    3. 継手製造時における注意点

      合成ゴムを、大量生産している継手のガスケットとして使用することは、合成ゴムが、継手に要求される長期のシール性能を担保する部材となり、さらにゴム材料に起因する不具合発生の場合は企業の存続を危うくする可能性があることを肝に銘じておかなければならない。

      しかし、合成ゴムを使用する側から見た場合、直接的な分析などの管理が困難で、品質管理が難しく、特に前述したような寿命推定は豊富な分析データが必要となる。ゴムメーカーとの継手設計時での取り決め事項を継続して確認することは当然として、使用中においてのトラブルは徹底的に原因究明を行うことが、より高いレベルの品質管理につながる。

      まずは事前にゴムメーカーと定めた方法でのガスケットの寸法測定が基本であるが、継手設計時の注意点の中で記述したように、SAS322:2014の試験項目は製造時の品質を維持・管理するために有効な試験であるため、定期的に全項目の試験を行い、定めた範囲での結果が維持できていることを確認する。

      また、製造時、特に加硫反応を生じさせる時の条件変更の影響が現れ易い比重による管理が大切である。加硫密度が高くなると比重も上昇し、加硫密度が低くなると比重も低下する傾向を示す。しかし継手製造会社の受け入れでの測定は難しい。このため電子天秤を使用した重さの管理が簡便で有効であると感じている。

      さらに、比重は配合物の分散不良によっても影響が出るため、ゴムの組成についても管理する必要があり、定期的なガスクロマトグラフでの測定と継続的な過去の測定結果との比較を勧めたい。合成ゴムの詳細な分析は、費用からも、また設備を保有し容易に依頼できる検査機関の存在からしても、頻繁な分析は難しい。しかし、ガスクロマトグラフであれば各地方自治体の試験機関も所有しており容易に依頼できる。

    4. 用途開発の事例

      ステンレス製メカニカル継手の用途について、一般的な給水・給湯から、さらに厳しい環境での用途への拡大を計画する場合に、使用する合成ゴムの寿命が継手自体の寿命を決定づける。重要なことは合成ゴムの耐久性を、科学的に裏付けた根拠により示すことである。当然、第三者機関、特に合成ゴムの調査に豊富な実績のある研究機関の指導を受けることが必須である。以下は高温水配管または蒸気還り配管での使用の可能性を示した事例である3)。

      建築設備において、蒸気は、暖房用の加熱や熱媒としての直接利用、医薬品生産工場、医療施設、食品を扱う給食センター、地域施設など、多くの建物で利用されている。そして蒸気の還水系統に発生する炭酸腐食の対策として、ステンレス鋼管が採用されている。この事例は配管の温度について、最高130°Cまでの対応を念頭に、150°Cの蒸気温度を負荷することで、より過酷な条件での耐久性能を調査することを目的とした。供試配管の設置状況を図2に示す。

      図-2 供試配管の設置状況

      ガスケットとしてフッ素ゴムを使用した。試験配管は150oCの蒸気ボイラー出口に配管しており、稼働から3年半経過したゴムガスケットと7年半経過した時の劣化状態を以下に示す方法で比較した。

      1. デジタルマイクロスコープによる試料表面の観察
      2. 綿棒による黒粉付着量評価と硬度分布測定
      3. 顕微鏡FT-IR(赤外分光分析)、固体19F-NMR(核磁気共鳴)法によるポリマー定性および劣化分析
      4. DSC(示差走査熱量計)によるガラス転移温度の測定および劣化分析
      5. EPMA(電子線マイクロアナライザー)による元素分析
      6. XRD(X線回折)法による無機物質の定性分析

      図3に試験結果の一例としてXRD(X線回折)法による定性分析結果を示す。

      図-3 XRDによる定性分析結果

      3年半経過後では、MgO,MgF2は検出されなかった。
      7年半経過後では、MgF2が僅かに検出された。

      以上の試験結果より、3年半と7年半使用後のガスケットは、同様に変形、黒粉の付着、表面劣化が認められ、接液表面もしくは、その近傍で、僅かであるが、水が進入し、劣化が進行していた。

      また、7年半経過した試料からは、未使用品には含まれないMgF2が検出されたことから、脱フッ素反応の発生が示唆された。

      しかし、ガスケット全体の硬さ及び、内部の化学構造にも劣化の兆候は認められないことから、長期間において、使用には十分耐えるものと考えられた。3年半と7年半という長期間の継続した取り組みを行った事例であるが、使用可能性を示す根拠となる試験項目については、専門機関の指導なしでは示し得ない。本試験ではフッ素ゴムを使用したが、前述の通り、熱水での硬化劣化の報告があるため2)、対策を行い耐久性を検証した。

  3. まとめ

    継手を製造、販売している立場から合成ゴムを使用する場合の注意点の整理を行い、今後の用途拡大への期待を込めて事例を紹介した。

    耐久性能に関連して、寿命推定については緒についたばかりであり、別の機会に現状を紹介したいと思う。

参考文献
  1. 中村勉,河原成元,大武義人,坂上恭助:給水中に含まれる残留塩素による合成ゴムの劣化に関する研究 第1報EPDMパッキンの劣化の事例とメカニズム,空気調和・衛生工学会論文集,No.171(2011年-6月),pp.41-48
  2. 大武義人:高分子材料の劣化に及ぼす水の効果,高分子,58巻(2009年-8月),pp.525-528
  3. 常藤和治,坂上恭助,飯塚宏,中村勉,大武義人, 松島俊久,竹田喜一:ステンレス製メカニカル式管継手に使用される止水ゴムの性能評価 その5蒸気還水系統に使用されるフッ素ゴムの耐久性, 空気調和・衛生工学会学術講演会講演論文集, (2013年-9月),pp.161-164